123号・「月の都」で咲き始めたオミナエシ

 信濃毎日新聞の地方版(2010年8月6日付)で、姨捨棚田地区で「女郎花が咲き誇っている」と知らせる記事を読みました。シリーズ100で「秋の七草」を代表する花の一つであり、俳人、松尾芭蕉も「更科紀行」に「ひょろひょろとなほ露けしやをみなへし」の句を残しながら、「月の都」の当地になかなか見当たらないと、書いていたので飛んで行ってきました。長楽寺の伽藍も見通せ、振り帰れば姪石と鏡台山―というすばらしいロケーションにありました(姪石という名前は長楽寺境内の姨岩に対し、少し小さいことなどからの命名)。左と中央の写真です。
 姪石で昼寝
 この場所一帯は、植物の希少種の保全園として、市内の有志や専門家でつくる千曲市生物多様性保全協議会が2008年から整備しているもので、昨年、その一角にオミナエシを植え付けたそうです。花は粒のように可憐な黄色いで、2列になって咲いています。訪ねたときは、やはりこのオミナエシのことが「テレビで紹介されていた」という女性が来ていました。
 お話をうかがうと、この姪石周辺で子どものころ稲作をしていた千曲市羽尾地区(旧更級村)生まれの方と分かりました。何十年ぶりだそうです。昔の道も残っていると言っていました。姪石と「石」とは名づけられていますが、大きな岩です。今は周囲が削られたようで高台になっていますが、昔はこの周りの日陰になる場所で農作業の合い間に家族で横になってよく昼寝をしていたそうです。羽尾は距離的にかなり遠いところというイメージがありましたが、昔は斜めに上り下りする道を歩いたので、そんなに往来するのに大変ではなかったと女性はおっしゃっていました。
 そんなことをお聞きしていたら、棚田の景観維持への協力もかねて稲耕作体験をしてもらっている棚田オーナーの人たちが車を止める下の駐車場から2人の年配のご夫婦が上がってきました。やはりテレビでニュースを見て松本方面からやって来たきたそうです。花が好きな人たちがとても多いことを実感しました。
 極彩色の境内
 シリーズ100で少しだけ触れた千曲市稲荷山地区(旧更級郡稲荷山町)の長雲寺にこの夏も行ってみました。右下の写真です。お地蔵さんの後ろをはじめ、お墓の入り口などあちらこちらにあり、まだこれから株立ちして咲きそうなものもいっぱいありました。
 ご住職によると、戸倉上山田温泉(旧更級郡上山田町)が当地とその周辺の寺を「秋の七草寺」として観光客に紹介しているそうです。長雲寺は「藤袴の寺」だそうですが、花がお好きな奥様がほかの花も植え、現在は七草全部を見ることができるとおっしゃっていました(ちなみに「女郎花の寺」は戸倉上山田温泉の上方の山腹にある智識寺だそうです)。
 長雲寺本堂には万物を生成する元素を象徴する色の集まりである五色の幕が掲げられ、背景の青空も加わり、光に満ち溢れた極彩色の光景を描いた、掛け軸の極楽の世界のようにも思えてきました。
 大正橋のたもと、千曲市戸倉庁舎の前の歩道の植栽の中にも、オミナエシが咲いていました(中央下の写真)。昨年は冠着山と鏡台山に自生するオミナエシを見つけましたが、ほかにもあるところ知っているという人がいます。

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