168号・姨捨棚田を潤す弁財天の湧水

更旅・弁天清水・サムネイル 国の重要文化的景観に選ばれたことで「姨捨棚田」は世に一層知られることになりましたが、その選定域は棚田の上方にある大池まで含まれていることを知りませんでした。

 「田毎の月」を育んだ棚田の水源が大池付近にあることは知っていたのですが、どんな場所なのか見に行きました。大池の開拓記念碑などがある一角に千曲市と文部科学省が作った案内板があり、そこに大変分かりやすい地図(左)がありました。
 その地図によると、重要文化的景観には、大池の水源「弁財天」のお社周辺から湧き出す水が蓄えられ、そして流れるルートがすべて含まれているのです(赤線で囲まれた部分)。棚田の景観だけでなく、棚田を潤す水が今もこんこんと湧き出し、それが棚田の景観美を形成・維持していることが重要文化的景観の大事な要素なのだそうです。
 弁財天は河川の神様でもあります。斜面からは1本、太い流れが出ており、ほんとうにこんこんという表現がぴったりです。これだけでなく弁財天周辺からはあちこちから水がしみ出しています。後背地はそんなに高い山でもないのに、いったいどうやってこんなに水がここに集まっているのか、地面を掘り返したくなるほどでした。
 シリーズ142でご登場いただいた信州大学名誉教授(地震学)の塚原弘昭さんのお話などを踏まえると、大昔に起きた山の地滑りなどで地下に水が染みてたまる場所ができているようです。降った雨水が長い年月を経てここに湧き出しているわけです。
 水の流れに沿って歩いて下ってみました。その流れは「更級川」と呼ばれます。冬場なので水の流れはわずかでしたが、姨捨棚田の上方の集落である大池区の棚田がまず目に入ります。巧妙に水路を分岐させ、水を斜面に引き入れた先人の知恵に関心します。

 それぞれの一筋の流れが広大な斜面を潤すとはなかなか信じられませんでしたが、途絶えることなく水が流れ続ける仕掛けとして大池が江戸時代に整備されたのだそうです。

 画像をクリックすると、PDFが現れ、印刷できます。