千曲川堤防道を走る至福の時間

以下は千曲市羽尾四区の塚田尚志さんのエッセー(さらしなの里友の会だより25号=2011年秋=から)。千曲川の下流に向かって西側の堤防は車の通行ができない、歩行者と自転車の専用道で、塚田さんは長年ここでランニングをしています。その中で最も好きな景色について書いています。

水天宮・冠着 毎週土曜朝6時過ぎ、いつものとおり短パンにTシャツという出で立ちで、平和橋のたもとを出発して、一路若宮の大正橋のたもとまで約4㌔の堤防道路を南上する。この道は歩行者と自転車専用で車は通れない。しばらく進むと両側に稲穂。そして砕石場の脇を走りぬけると左に千曲川の岸辺、はるか遠方に鏡台山の頂き、右前方に目を向けると冠着山の雄大な裾野が広がる。もうかれこれ20数年見ている光景である。
 時折すれ違うランナー、犬を連れた人、夫婦で散歩する人、いずれも「おはよう」「こんにちは」と声をかけてくる。知らない人なのだが、ある時ふと考えてみた。赤の他人なのになぜみんな挨拶をするのだろう。これはきっと千曲川と冠着山の魅力に取りつかれ、ここ千曲川堤防道路に集った同志の証かと勝手に考える。
 思えば30歳を過ぎたころ、体力の衰えを感じて健康と体力の増進というささやかな目的で始めたランニングも、いつしか長野マラソンを走るまでになり、いまや走ることが完全に生活の一部になってしまった。ただ4年前、腰の手術をしてから走る目的が変わった気がする。それまでは景色を見る間もなく早く走りたいという思いであったが、いまはゆっくり景色をみながら楽しんで走ろうと思うようになった。
 そんな思いをめぐらせて進むと、この道程のなかで私お勧めの絶景スポットにさしかかる。雄沢川にかかる橋を渡って直角に曲がった瞬間だ。左側に千曲川が急に迫ってくる。大水の時は堤防が決壊するんじゃないかと思えるくらい川が蛇行している。目を右上方に向けると冠着山が圧倒的な存在感でそびえている。冠着山はどこからみてもかっこいいのだが、このスポットこそが一番わくわくする瞬間。千曲川と冠着山を同時に味わえるとは。さらしなの里に生まれ育って本当に良かったと思える至福の1時間である。(羽尾四区・塚田尚志)