118号・更級を貫く千曲川サイクリングロード

  「月の都」としての当地が誇っていいものに、千曲川西岸の堤防、通称サイクリングロードがあります。国土交通省千曲川河川事務所によると、部分的に途切れてはいますが、上田市から犀川と合流する地点まで約40㌔。旧更級郡域の東側の境界に相当します。法令上は「自転車歩行者専用道路」と位置付けられ一般車両は乗り入れが禁止されているため、自転車だけでなく、ジョギング、ウォーキング、散歩、一輪車など四季を通してたくさんの人や犬が行き来しています。実家が堤防の近く(旧更級村、現千曲市芝原)にあり、幼いころから親しんできました。
 千曲橋の親水空間
 一度は踏破しようと思い、冠着橋付近から自転車で初夏、北に向かってたどったことがあります。午前10時ごろ出発。千曲市の八幡と中両地区を結ぶ平和橋を過ぎる辺りから、河川敷にはリンゴや桃、アンズの果樹園が広がります。自家用と思われる野菜畑には年配の人たちがちらほら。鳥の鳴き声もにぎやかです。
 千曲市域を出て長野市横田地区に入ると、道沿いに「救難地蔵尊」がありました(下の写真)。赤色の帽子と肩掛けが目に鮮やかです。碑文には「千曲川水難の犠牲者の霊を慰めるため」とあります。建立は昭和10年代。ダムによる水量調節などで洪水の危険は現在、少なくなりましたが、お地蔵さんの前掛けも瓶に生けた花も新しく今も大事にしている人がいることが分かります。
 長野冬季五輪の開会式が行われた長野オリンピックスタジアムを左に見ながら1時間ほど行くと「川中島古戦場」。堤防を市街地側に下りてすぐのところです。武田信玄と上杉謙信の一騎打ちの像の前は観光客でにぎやかでした。
 この史跡の少し先の長野市小島田地区(旧更級郡小島田村)まで行くと、「更埴橋」という名前の橋がありました。更級、埴科両郡をつなぐことからの命名だと思いますが、千曲市に合併前の更埴市域からずっと離れたところにこの名前の橋があることに旧更級、埴科両郡の名前にこだわりのある人たちがいたんだなと分かり、不思議な感動を覚えました。自転車では犀川との合流ポイントまでは行けませんでした。交わる現場もいつか見てみたいと思います。
 あまり人を見かけないなと思っていたのですが、来た道を戻り、夕刻、千曲橋辺りまで来ると、人が現れ出しました。堤防沿いの住宅街から年配の人たちが農具などを積んだ一輪車や軽自動車を堤防沿いに止め、河川敷で畑仕事に精を出しています。
 自転車で帰宅する高校生、買い物かごをいっぱいにした主婦。土手の斜面では、少女が雪上で使うそりで滑って遊んでいます。ボールを土手に投げ戻ってくるのを下で受け止め遊ぶ少年たち。河川敷でゲートボールを楽しむお年寄りの姿を見ながら談笑する同年代の人たち…。千曲橋辺りは広場が整備されているせいもあり、とても親水空間らしい感じがしました。
 そこから目を南、少し上に転じれば、今年、国の重要文化的景観に指定された「姨捨の棚田」と姨捨山の異名を持つ冠着山がその雄姿を見せています(左上の写真)。顔と半袖から出た肌は赤く日焼けしてヒリヒリしたましが、涼しい川風が吹き始め、全身をくるんでくれました。
 風情は守れるか
 最初に本格的にこの堤防を自転車で走ったのは三十数年前、高校時代でした。学校が千曲川東側の屋代地区にあったため、毎日片道40分近くをかけて通っていたのですが、特に部活動を終えての帰り、堤防を走りました。まだ砂利道だったような記憶があります。車はもちろん人もほとんど歩いておらず、一人占めできました。大声を出しても人には聞こえないような気がして、井上陽水やアリスの歌をよく歌いました。
 そんなことをまた思い出させてくれたのが、更級地区在住の音楽愛好家でつくる「棚田バンド」のメンバー、金井栄一さんです。「『風』がテーマの歌があるといい」とおっしゃっていたので、詞を作ってみました(右に掲載)。早速、金井さんが作曲してくださいました。フォーク調のとても親しみのあるメロディーです。
 最近はジョギングのコースとして楽しんでいます。ゆっくり走ったり、歩いたりしていると、すれ違う人たちのいろいろな声も聞こえてきます。ある自転車のグループは採石場のある平和橋近くのポイントで立ち止り、冠着山方面を眺めながら、「この角度の光景がすばらしい」と言っていました。朝方は冠着山から左右に伸び下るいくつもの尾根筋を乳白色の霞が帯のようにまとわりついています。佐良志奈神社近辺から戸隠連山や飯縄山が見通せる光景も来訪者に自慢したい風景の一つです。
 心配なのは、国道18号(千曲川東側)のバイパス建設がこの風情を壊さないかどうかです。このバイパスは上田と長野市篠ノ井の間の千曲川西側域をつなぐもので、更級地区を通過する道はサイクリングロード沿いが予定地になっています。篠ノ井からのバイパスは現在は八幡地区を通過し、代地区の手前まで来ています。国道のバイパスは基本的に片側二車線です。車がたくさん往来する道ができると、沿線が乱開発された例を各地で見てきました。車の騒音で水の流れる音は消されないでしょうか。水鳥は生息地を奪われないでしょうか。千曲川の水辺に車を気にしないでたどりつけるような対策をしっかり講じてほしいと思います。
 上の写真は、犀川(右)と千曲川が合流する地点を北の空から撮影したものです。インターネット上の辞書と言われるウィキペディアの「犀川」を紹介するサイトに載っていたものをダウンロードしました。

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