「サラダ記念日」のすがすがしさ、躍動感(美し16)

 「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

 ふだんの言葉で短歌をつくるのは今では当たり前だが、歌集「サラダ記念日」で俵万智さんが約30年前に世に送り出したこの短歌が大きなきっかけだった。俵さんが、自著「短歌をよむ」(岩波新書)の中で、どのようにこの歌を作ったか明かしており、「S音の力を借りた」というところを興味深く読んだ。
 S音というのは、さ行の音のことで、俵さんはこのさ行の響きを効果的に使ってサラダ記念日の短歌を作ったと書いている。きっかけになった出来事は現実には七月六日ではなく、素材もサラダでなかったという。ではなぜこの日付を選び、サラダにしたのか。「シチガツ」と「サラダ」のS音が響きあって、さわやかな感じて出ると思ったからだとののこと。
 実際の出来事ではなくても、人間の真実を言葉で描けていれば文芸。短歌もその一つ。「サラダ記念日」のこの歌には、他人を好きになった人の心のすがすがしさや躍動感がある。俵さんは自著の中で書いてはいないが、「君が言ったから」の「から」と、「サラダ記念日」の「サラ」のR音も呼応して、奏功していると思う。ららら、らんらん、おどる…というようにR音には、うきうき感、弾む感じがある。