美しさらしな(12) 水面を焦がす月

 さらしなのすごさや魅力を伝えるには短歌がいいと思っている。短歌には物語がこめやすい。さらしなに日本人が抱いてきたあこがれを証明する和歌を、たくさん読んできたせいもあるが、日本最古の歌集万葉集に触発され自分でも作った。
 あらわれた月の面(おもて)に見ているのあなたの姿恋するわたし
 これを作るのに刺激を受けた万葉集の歌は
 望の日に出でにし月の高々に君をいませて何をか思はむ
 都を守るために駆り出された地方の男が、満月の月面に妻か恋人を映し出してしのんだ歌だ。歌の中の月は、千曲川の東にある鏡台山をはじめ旧埴科郡の山並から上る月にぴったりな感じがして、その山並みと月が眺められる千曲川西側の歩行者自転車専用堤防を、夜な夜な自転車を走らせたり、歩いたりしたことがある。
 そのときに作ったのが
 望月や千曲の水面焦がされて明かりなき堤防(どて)われら全焼
 これは万葉集にのる信濃なる千曲の川のさざれ石も君し踏みてば玉と拾はんに触発された。