更旅255号 「白」-さらしなの地名力の源泉を明らかにする本です

 「さらしな」という地名の力の源泉を明らかにする本を作りました。「白 さらしな発日本美意識考」です。なぜ「さらしな」が全国のあこがれになったのか調べているうちに、日本人の暮らしのすみずみにある「白の美意識」に気がつきました。更旅シリーズで書いてきたものに加筆修正したり、新たに書きおこしたりしたものをまとめました。A5版、112ページ(左に目次一覧)。ご希望の方には差し上げています。 
 本書の感想(書評)を、さらしな里のシンボル冠着山(姨捨山)の保全に取り組む上水清さんと、千曲市で画廊を主宰する西澤賢史さんからいただきました。ご了解を得て、掲載します。(画像をクリックするとA3判でも印刷できるPDFが現れます)

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「月の都さらしな」のゆるぎない原理

冠着山の自然と文化遺産を保存する会事務局長  上水清さん
 「地名遺産さらしな」(注:2012年さらしな堂出版)は、さらしなのすばらしさ(スーパーブランド地名)を実証するための証拠を調べ上げて書き綴った貴重な書物となっていますが、今回の日本の美意識の原点を解き明かし明確にした「白」は、さらにそれを掘り下げて、なにゆえ都人は「さらしな」にそれほどまでに憧れたのかという疑問に答える内容となっているように思いました。
 月は美しく人の心を癒してくれるもの、特に「慰めかねつの月」(注:古今和歌集に載る「わが心慰めかねつさらしなや姨捨山に照る月をみて」)は特別の月であって、その月がさらしなを有名たらしめた。その程度にとどまっていた段階を更に深く掘り下げて、ゆるぎなき証拠(原理)を確立させるための労作であると思います。
 「一気に読み続ける」ということは、引き付けられて離れられない、ということです。
 私は、最近修験道に凝っていまして、神道、山岳信仰、仏教、陰陽道などの文献などを読むことが多くなりました。いずれも日本人の心の源流に関わる内容です。その中でも神道の思想・教えは、「清き赤き心」であることに特別の意味を感じとって楽しく付き合っています。先日も、更級小学校の冠着山登山の案内人として、霊峰冠着山を案内しました。その時、坊城平の鳥居の前で、この「清き赤き心」について資料を添えて20分ほど説明する機会を与えられ、子どもたちにわかりやすく説明したつもりです。
 「清き赤き心」の持ち主でないと、神様は願いことを聞き入れてくれないどころか、怒られる(罰が当たる)というような話だったと思います。この本でも74ページに清楚は神道の思想、精神性だとふれています。この「清き赤き心」の色も白で、だから修験者も白装束で山に入るのでしょう。
 極楽浄土に至る道も白い道、人が死ぬと冥途へ旅立ちます。この死出の旅路も白装束。輪廻転生、できれは極楽に行きたい、狭き白き道、その道をたどって。そこにも再生復活の願いが込められている、その願いを託す色は白。ここでちょっと「ヒラメイタ」。坊城平の冠着十三仏から浄土岩、児抱き岩を経て頂上に至る道を「阿弥陀如来と大日如来のおわす冠着浄土の白き道」と名付けよう。
 さらしなは「白いキャンパス」、だからあまたの人が自分の世界を描きに当地を訪れた(107ページ)
 ここがいいですね。これからも大勢の人に来てほしい、それにふさわしいさらしな。
 最後にあさひ屋の「さらしな焼きそば」が出てきたのもいいですね。とかく堅い文章が柔らかくなってほっとします。 
 さらしなは白、再生復活の地。白で世の中をあっと言わせ、さらしなを元気付ける。次の遠大な課題が見えてきましたね。

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「白」に感じる心を地名から解明

アートサロン千曲代表 西澤賢史さん
 とても良い企画の本だと思います。大上段に構えず、日本人の心の底にある豊かな情感、哀惜、懐心、とでも言いましょうか、《白》に感じる心を、《美》意識やさらしなの地、そしてその地名に結びつけた注目点に拍手します。《美》の観点で言えば、紙の白と墨の色、特に水墨画の世界に、さらには日本画の要点である『何を描き、何を描かないか』に「白の美意識」があります。描かないスペースの持つ想像、思いに《白の空間、描かない空(くう)》があるという高度な意識ではないでしょうか。平山郁夫画伯の奥様、千住博さんと直接お会いしてのお話の中で感じた思いもあります。そのお話の内容もまたお伝えして、「白」を考察する参考にしていただければと思います。