読み解きが深まる「更級日記」 女性の生きざまと社会 国宝に指定

平安時代に書かれた「更級日記」が2023年6月27日、国宝に指定されました。文化審議会の答申(22年11月)を受け、同日付の官報に告示されました。正確には、鎌倉時代の歌人で小倉百人一首の考案者、藤原定家(ふじわらのていか)が書き写した和綴じ本が国宝になったのですが、更級(さらしな)という地名・言葉が「国の宝」になると言っていいのではと思っています。その本家本元のさらしなの里である羽尾5区(旧更級郡更級村、現千曲市)老盛会で7月19日、国宝「更級日記」についてお話をする機会を得ました。

1行も「さらしなの里」のことが書いてないのに、なぜ当地の「更級」がタイトルになっているのか気になって「更級日記」を手にとって約25年。今、この作品は時代や社会と女性の生きざまという観点での読み解きか深まっている気がします。その例として、2019年に放送されたNHKの「歴史秘話ヒストリア 物語に魅せられて 更級日記・平安少女」という番組を取り上げました。日記作者の菅原孝標(すがわらのたかすえ)の娘の心の中に入りこんで、なぜ自分史の先駆けといわれる日記を書いたのを明らかにしていく番組でしたが、女性の活躍や社会的立場の向上といった現代が抱える問題のまなざしを注ぎながら、菅原孝標の娘の生きざまを紹介しているところが大きな特徴です。「更級日記」研究で評価される研究者にも女性が登場していることも関係しているのではと思います。文芸作品は時代が変わると、読まれ方もその時代の精神を反映したものになります。

会合では、番組の関連する場面などをご覧いただくなどして、なぜ平安時代の貴族女性が晩年になって日記をまとめ、そのタイトルに、一地方の田舎にすぎない当地の「更級」の地名を付けたのか、たっぷりお伝えしました。そして、天皇の住まいだった京都御所に「さらしなの里」の襖絵があることや、「さらしなの月」を読んだ豊臣秀志ら戦国武将の和歌、さらしなという地名へのあこがれは現代にもあることをお話ししました。

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