「白」をテーマに美術展 「月の都」千曲市誕生20年企画がスタート

 千曲市のアートまちかどの新春企画展「白が伝える美の景色」(2月5日まで)、見ごたえがありました。同美術館所蔵の作品を中心に、雪の景色や白をモチーフにした絵画をたっぷり見せています。わたしは川端康成さんがノーベル文学賞受賞スピーチで語った「 色のない白は最も清らかであるとともに、最も多くの色を持っています」という言葉を思い起こしました。

 色のない白なのに、なぜ最も多くの色を持っているのか。「さらしな」という地名に古来日本人が抱いてきた魅力を深掘りする中で、川端さんのこの言葉の意味するところが分かってきました。

 展示作品には、雪の景色や白色をモチーフにした魅力的な作品がたくさんあります。新しい年をすがすがしく始めたい心持ちにすーっと入ってきました。一方で、たくさんの色で彩られているのに「白い森」というタイトルが付けられた作品があります。さまざまな色の中心にかすかに白が見えます。川端さんの言葉の意味とこの作品の関係をしばらく考えました。

 この展覧会では、杏画家として知られた近藤早苗さん(故人)の、花盛りのあんずの里を描いた「杏村の春」など、新収蔵作品もお披露目されています。近藤さんの作品は多彩な色づかいに癒されます。わたしは桜の花が咲き始めた山路から千曲市を望む油絵を買い求め、玄関に飾っているのですが、みるたびに気持ちがやわらぎます。「杏村の春」は、雪を描いた作品ではありませんが、この作品を見た時の、すがすがしさ、はれやかさは、雪景色や白がモチーフの絵画と似ています。近藤さんの作品はたくさんの色を持っていながら、「白」を感じさせます。

 白を強烈にイメージさせる「さらしな」という地名。その地名があることによって、千曲市は「月の都」となりました。ことしは千曲市の誕生20年の節目。その節目の年の始まりを飾る美術展だと思いました。

 川端康成さんのノーブル文学賞スピーチについては、次のページをご覧ください。

更旅236号・白にこめた川端康成さんの美意識