白に46億年の美ー千住博さん「フラットウォーター」

 アメリカのニューヨークを拠点に世界で活動する日本画家、千住博さんの美術館(軽井沢千住博美術館)が軽井沢にある。千住さんは滝をモチーフにした「ウォーターフォール」で世界に知られているが、ウォーターフォールより先ニューヨークで一躍名を馳せたのが、水の白色の表現だった。
 アメリカで名を馳せた作品は1993年に発表した「フラットウォーター」で、溶岩を今も噴出しているハワイ島の海岸を取材したときの体験がモチーフだ。空を覆った雨雲のしたに広がる、陸になってまもない溶岩の黒い肌、岩肌のへこみにたまったり流れたりしている水。水は雨雲の色を反映して白く表現されている。自作についてふりかえる千住さんの著書「絵の心」(世界文化社)によると、千住さんはハワイ島のこの景観に、46億年前に溶岩と雨で大地が創生され始めた地球の原初の姿を重ねた。この景観を絵にすることは、その途方もなく長い時間を描くことにもなると考えた。
 わたしは「フラットウォーター」の連作の一部を軽井沢の美術館で、そして「水の音」という画集(小学館)で見た。すごい。絵の前では立ち止まり腕を組まざるをえないという感じだ。一方で、この感覚に似たものは過去にあったなと思った。水を張ったさらしなの里の棚田や千曲川だ。ほかの地というか世界の多くの人たちも、千住さんの「フラットウォーター」を見れば、水と空と大地のこうしたコントラストを見たことがあると記憶をたどるのではないかと思う。
 千住さんは、「フラットウォーター」がアメリカ人に高く評価されのをきっかけに、日本人の自分が本当に美しいと思ったことの表現をつきつめれば、それは世界の人にも届くという確信を持った。白の美しさの表現に、和紙の白い地の部分を生かし、地球を創生した溶岩(岩石)を砕いた岩絵の具という日本画ならではの絵の具を使うことも効果的だったという。水は命の源だから、水への思いは世界中の人が強いはず。それを美しく深淵に描くことができたのが日本画で、しかも、それは白(余白)が基調だったという。
 千住さんのこの出世作は、20世紀初め、藤田嗣治さんがパリに乗りこみ、女性の肌を独自の白(乳白色)の表現で世界の洋画家の仲間入りしたことや、シルクロードの連作で知られる日本画家の平山郁夫さんが奥入瀬渓流(青森県十和田市)の水の白色を描くことで命の原点をつかみ、本格的に画業に進むことができたことと、根っこの部分で共通しているところがあると思う。
 千住博さんの作品については次のサイトをクリック。
 軽井沢千住博美術館 Hiroshi  Senju