国土を清める桜花

「さらしな」という地名の魅力を調べていくときに有力な資料や根拠になったのが、和歌(短歌)でした。調べた結果を「白 さらしな発日本美意識考」という本にまとめましたが、古今の歌を読むなかで日本人の「白の美意識」を強く感じるものがいくつもありました。

 咲くさくら散るさくらあり列島はささらほうさらさくらほうさら 土橋身知子

この歌は山梨県の短歌結社「美知思波」の機関誌2017年8月号に掲載されていたものです。
S音とR音の繰り返しの調べが心地よく楽しいです。桜前線の北上とともに日本中が桜の花の色で染まっていく様を俯瞰しています。幹や枝を飾っている花、風に舞う花びら、地面を埋めつくした花びら…。日本の国土が、桜の花と花に寄せる人たちの思いで清められ、年度が新しく始まることを祝福しています。
「ささらほうさら」は山梨県や南信州で「ひっちゃかめっちゃか」といような意味で使われます。作者は山梨県の人ですから、そのことを知らないはずはないと思いますが、意味よりも音の響きを歌に取り入れることによって春先の躍動感やうきうき感を強調したようです。
最後の「さくらほうさら」は、テレビドラマにもなった作家宮部みゆきさんの小説のタイトル「桜ほうさら」を思い出させました。宮部さんもやはり「ささらほうさら」の音の調べが良いのでタイトルにしたそうです。